はい、ディープインパクトの話しますよー。
あまりに騒がれすぎて一時期は俺もアンチディープになりかけたんだけど、武豊が一番勝ってた時にこういう馬が現れて、凱旋門賞に挑む姿を見ることができて本当によかった。
これほどの名馬になると文章も長くなっちゃうんだけど、終わり方は非常に雑です。
オルフェーヴルの話した後にディープの話するともう遠く懐かしい時代の馬に感じられてちょっと寂しいね。
ブラックタイドの下
まず、ひとつ上の兄にブラックタイドという馬がいたね。
新馬戦の勝ちっぷりで「これはかなりの大物が出てきた」と話題になって、でもその後は勝ったり負けたり。ちょっとかわいい。
スプリングSをド派手な追い込みで勝ち、皐月賞でも人気したがいいところなくボロ負けをして故障、屈腱炎でながーい休養入りになってしまった。せつない。
最初は「ブラックタイドの下」だったんだよね。厩舎も兄と同じところなので、兄の獲れなかったクラシックをこの馬で!みたいな。デビュー前から評判も相当高かったらしく、まあよく見かける表現だけど「兄を超える大器か」とも言われていた。
その期待通りに楽勝して、次走は兄も勝っている若駒S。このめちゃくちゃな圧勝で一気に「ディープインパクト」の名が広まった。なんかもう、出来の悪い競馬ゲームみたいな伸び方だった。
当時は競馬人気もやや停滞気味で、競馬ブームから売り上げが下がり続けている真っ只中だった。ネット投票で最近盛り返してきている全国の地方競馬場も、そんな未来が来るとは知らずに相次いで廃止になっていった。
周りの競馬知らない友達も馬なんか全然興味ないのに、俺が何かにつけて競馬の話をしてくるもんだからステイゴールドとかテイエムオペラオーとか名前を覚えてしまっていて、そいつらに「週末の弥生賞は凄いことになるよ、『ディープインパクト』、この名前は覚えておいたほうがいい」なんて言ってた。
そしたら勝ちはしたんだけど全然差が付かないで勝ち方でやんの。たはーっ。人生であの時だけだよ、「たはーっ」なんてリアクションしたの。
目標はダービーではなく、三冠
とはいえ全く過大評価ではないレベルでクラシック三冠が視野に入ってるディープインパクト、もしも三冠レースのうちどれかで負けるとするならば、紛れのある中山コースの皐月賞だと当初は言われていた。と思う。俺が騒いでいただけかもしれない。
俺はさぁ、一頭飛びぬけた馬が勝ちまくるよりも、複数の有力馬が年間通して勝った負けたでしのぎを削る様を見るのが楽しいんだよ。だから逃げタイプの有力馬ストーミーカフェが出てくれば、それこそ工藤静香ばりに嵐を起こしてくれるんじゃないかとけっこう期待してた。
それが共同通信杯で58kg背負わされて、勝ちはしたもののその直後に怪我して皐月賞は出られなくなり、何年か後には去勢までされて走り続け、負け続けるはめに・・・。せつない。
そんなわけで対抗馬らしきものも現れず、皐月賞は完全にディープ一強、出遅れてもさらっと勝つ。2着がシックスセンスで映画タイトルのワンツーですね。どっちも観てないけど。
そして日本ダービー当日。競馬場内にディープインパクトの銅像が建立されていた。これからレースやるっていうのにその中の1頭だけの銅像作るってなによ。
こんなの周りの騎手への無言の圧力にもなるじゃん。まあスターを作って競馬人気を盛り上げようみたいなので必死になるのはわかるよ。なりふり構ってられない状況だったとしても、ちょっとその方向には疑問を感じた。
そんなディープ確勝ムードの中、俺はニシノドコマデモを買い、佐藤哲三とインティライミは空気を読まずに真っ向勝負で勝ちにいった。
そして武豊とディープインパクトは佐藤哲三とインティライミとを退治してダービーを勝ち、幸せな競走馬生活を送りましたとさ。めでたしめでたし。
ナリタブライアン以来の三冠へ
故障から復帰してきたストーミーカフェが「待たせたな!」って颯爽と逃げたけど、残念ながらもう遅かった。いい逃げっぷりではあったけど、直線入り口で大外から馬なりで上がってきたディープに並ばれて終了。
あの怪我がなければなぁ、と思う馬だったなぁほんとに。ディープの相手になれたまではさすがにわからんけどさ。
この年のラインクラフトvsエアメサイアのローズSも何だか妙によく覚えてるんだよね。そういえば当時は牡牝どっちも2000mだったんだ。あー懐かしい。
菊花賞。
いよいよディープの三冠が確定的すぎて、なんかもう面白くねぇなーと思っちゃうんだよね。
テレビ局はどこもディープ三冠特集やってたりして世の中は盛り上がってるし、アナウンサーも芸能人もみんなディープ勝つって言ってる。アナウンサーがそれ言うんかい。
そりゃ俺もそうだろうと思うけど、そんなんばっかり見せられてどんどんテンション下がっちゃうんだよね。ディープの三冠披露会じゃなくてこれ競走なんだけど、って。
そんで「はいはい規定路線規定路線」っつってぼけーっとレース見てたんだけど、2番手につけていた横山典のアドマイヤジャパンが早めに仕掛けて、直線に入ったところで抜け出す。追うディープとはまだまだ差がある!
!!!!
ドキッとした。
あのディープインパクトが負けるかもしれないんですよ。
そう思った瞬間、「それはダメだ!」という感情が湧き上がってきて、デパート屋上の戦隊ヒーローショーでヒーローがやられそうになるのを見た子供のように、気付いたら「負けるなっ!」てディープの応援してた。
面白くねぇとか言いながらも、やっぱり俺も普通に強い馬を応援している競馬ファンなんだなーと再認識できた。
まだ若かったから素直じゃなかったのねきっと。もしあの展開にならずにさらっと三冠達成していたら、素直になるきっかけが掴めないまま最後まで応援してなかったかもしれない。そう考えるとちょっと怖いな。
いるよなー、こういうめんどくせーやつ。急に言ってること変わるやつ。そうです、私が変なおじさんです。
だって周りの熱に逆感化されて肝心なことが見えなくなってたんだもん、しょーがないじゃん。ガハハ。
初の敗戦
有馬記念。
当時は前売りの入場券が必要で、友達が急に入場券を手に入れたっていうから急に見に行けることになってしまった。マジかよ。素直になっちゃったしなぁ。行くか。
たぶん中山競馬場は相当混んでたと思うけど(調べたら16万人だってよ)、あんまりそういう記憶はないな。
まずハーツクライが先行したことに死ぬほど驚いて、コスモバルクの4角先頭に死ぬほど感動して、ついにディープの負けを見てしまった。
息を呑んでレースを見てたんだけど、直線残り200m、あぁ、もう届かない・・・ってところで現実から逃げるように「さ、差せっ!」と叫んたけどやっぱり現実は現実でした。あーあ。
レースが終わった後、地味にタップダンスシチーの引退式やってたよ。すんげえ寒かった。
佐々木昌三調教師の感極まってる顔を見て「この人麻雀強そうな顔してるな」と思った。なんかめっちゃ裏ドラのりそう。
その後、忘年会やら新年会やら何やらで会う人会う人みんなに「ああそうだ、お前競馬好きだったよな、あれさぁ、ディープインパクトは何で負けちゃったの?」って聞かれて毎回つらかった。
うるせぇよ、おい・・・
まあやっぱり知名度はすごかったんだろうな。あまりに強すぎるせいで馬券の売り上げには繋がらなかった説もあるみたいだけど。
史上最強馬へ、圧勝に次ぐ圧勝
阪神大賞典はあれだね、芹沢のトウカイトリックが逃げて2着だったね。
それが天皇賞では逃げなくて、いや何やってんのマジで、と思った。まさかこの年から7年だか8年だか連続で出走して、あんなに人気者になるなんて。競馬はわからん。
天皇賞。
この天皇賞をディープのベストレースに挙げる人は多いと思う。俺もそう。あんな競馬は後にも先にも見たことがない。
勝利騎手インタビューで武豊が「いやぁ、これ以上強い馬なんているのかなぁ、と思うんですよね」と言っていたのが今でも強く印象に残っている。
宝塚記念。
一瞬、ほんの一瞬、好きだったバランスオブゲームが勝っちゃうんじゃねぇかと思って、鼻血出そうになった。まさかあいつが、この年齢にして、関西のG1で、それもあのディープを相手に・・・競馬ってのはわからんねぇ・・・なんてのは全然気のせいだった。あっさりと、そりゃもうあっさりと差し切られたよ。
ディープのほうからすると、渋った馬場(稍重)でもいつものように楽勝して、重いといわれる欧州の馬場に対する不安も、若干ではあるけれど軽くなった。実際どうなのかはわからんけど、まあまあそういうことにしときましょう。
凱旋門賞
予定通り凱旋門賞へ。
当時は前哨戦から向こうで使おうっていう考え方はまだそこまで馴染んではいなくて、目標とする一戦に全てを賭けて臨むことになった。
テレビ中継で返し馬を見ながら、いろいろなことを考えたような気がする。
でもねぇ、なんかねぇ、ロンシャンの綺麗な芝の上を歩くディープインパクトの姿を見ていたら、もうそれだけで感動しちゃったんだよ。
それまで俺が競馬を見てきた中で間違いなく一番強いと思える競走馬、さらにその鞍上には、これも間違いなく最高の騎手である武豊。
日本の競馬の全てを詰め込んだと思える人馬がこれから凱旋門賞で走る。これ以上最高の組み合わせなんてある?ないだろ。断言できる。
それでも、勝つかもしれないし、勝てないかもしれない。
結果はどうなるかわからないけれど、これから世界の競馬に対して日本競馬の全てをぶつけてくれること、そしてその姿を見せてくれること、それら全てのことに対して、あぁ、夢をありがとう、なんて思って胸がいっぱいになった。
結果は残念だったし、ディープの全てを出し切って負けたようにも見えなかったけど「しょうがない、今回はしょうがない」と自分でも不思議な程冷静に受け止めていた。
レース前にお腹一杯になりかけてたからかもしれないし、まだ時代が進んでいなかったからかもしれないな。
でも、このレースでまたひとつ時代が進んだのは間違いないよね。当時は全くそんなことを考える余裕はなかったけど。
凱旋門賞に於いてはひとつのエポックメイキングになったエルコンドルパサーの2着から、このディープインパクトで多くのファンが夢を見て、そして後にはナカヤマフェスタの正直意外だった好走があって、あのオルフェーヴルでの一瞬の歓喜、さらにその先へとつながるんですよ。たぶん。つながるはず。おねがいします。ぜひとも。
その後の記憶がないんです
確か日本に帰ってきてすぐだったかな、年内で引退って発表されたの。
来年も走れよこの野郎って思ったわけじゃないんだけど、いやまぁそうなったらいいなってちょっと期待はしてたけど、「このタイミングで言うかよ!」ってなんかむかついちゃった。
その後、例の禁止薬物やらなんやらのゴタゴタでもうすんげえテンション下がっちゃって、そっからあんまり記憶が無い。
あぁ、ジャパンカップ勝った。やっぱ強いね。
あぁ、有馬記念勝った。やっぱ強いね。
あぁ、ついに引退か。お疲れさん。強かったね。
そういえば有馬記念の観客数は前年比でガクッと落ちたらしい。あれなんだったんだろ。
ディープインパクト 14戦12勝 ディープインパクト | 競走馬データ - netkeiba.com
一着至上主義。
だせー。これ今でも競馬場で見かける度に「他にもっとあったろ・・・」って思う。いやまあ他にもそう思うポスターはあるけども。
"英雄"でいいのにね。
『英雄ディープインパクト』って呼び名けっこう不評みたいだけど、俺好きよ。
じゃあみんなで叫ぶよ、いい?
せーの、
グ ラ ス 最 強 !!