わたし競馬が好きなんで、オルフェーヴルの話しますよ。いいですか。
俺がこの馬を好きになったタイミングは、2012年秋、4歳の凱旋門賞だったかなー。
いや、おせーなおい。三冠馬だぞおい。
3歳春
誕生とか兄の活躍とかいろいろすっ飛ばして、東日本大震災の後に行われたスプリングSから。
なんかよく知らん馬が勝った程度の認識で、皐月賞の時点でもベルシャザールと全く区別が着いていなかった。しかも同じ枠に入るし。
スプリングS勝ったのってどっちだっけ?あぁ、ドリームジャーニーの下か、そうかそうか。いや、だからどっちが!ってテレビの前でキレてた。
どっちもスーパーに売ってるお菓子みたいな名前なんだもん。ルマンドとかの近くにありそうな感じの。
そもそも2011年牡馬クラシックにはあんまりテンション上がってなかった。まぁ震災の影響で正直それどころじゃなかったのもあったのかなぁ。
牝馬路線はレーヴディソールにぞっこんだったのに、桜花賞を前に故障しちゃって春は絶望だもんね。そりゃテンションも下がるよ。
史上7頭目の三冠へ
強かったねー。勝ち方が強い馬のそれだった。これはもう三冠決まっちゃったかな、と思った。
菊花賞。
これも強かったねー。この馬が三冠馬か、まぁいいけど、別に。
いいけど、中山で勝っていないのはちょっとどうなのかな、んん?
有馬記念。
超スローペースの最後方に近い位置からレースを進めて、あぁこれ有馬記念で有力馬が2~3着に負けるパターンですわ兄さん、と思って見てたらねじ伏せるような競馬で勝ちきった。
強いなぁ、これは本物だ。本当に強い馬ってのは、コースとか展開とか関係ないもんな。
でもここまで能力が抜けちゃってると、来年の競馬は面白くなくなっちゃうかもね・・・。
なんて思ってたら、めちゃくちゃ面白いものが見られた。
現役最強馬の苦難
逸走し始めたたところで「え!?故障?あれオルフェーヴルだよな?故障か?……故障だ、これは………今年の競馬は今日でもう全て終わりだ…」と心臓止まりそうになった。
そしたらなんかそこからグイグイ盛り返してきて、「何、この・・・何?」と何も説明がつかないような恐ろしい競馬で2着に突っ込んできやがった。パチンコの安っぽい逆転演出以外にありえないもん、こんなの。
その昔、マルゼンスキーも一旦止まったところから盛り返して勝ったことがあるらしいけど、これも歴史に残る競馬になるだろうな。
でも、これ、今後に大きく影響が出るかもしれないな、とも思った。
また派手に負けたもんだねー、と結果をあっさり受け入れられたことで、逆に大してファンじゃないことを再認識しちゃったよ。
東京競馬場のターフビジョンでレースを見てたんだけど、道中の観客のどよめきが凄かった。ずっとスタンドがどよめいたまま、ほとんど歓声が上がることなくレースが終わった。
でも、あれは良いレースだったよね。積極的に乗った石橋脩が勝ち取った、本当に印象に残る競馬だった。
宝塚記念。
これは単純に安心したよ。前走後は、この先もう勝てないかもしれない、競馬にならないかもしれないとさえ思ったからね。
ヒーローインタビューに登場した池添がさぁ、泣きながら発した一言目の「もうほんとにキツくてぇ~」がすげー面白くて忘れられないんだよね。
気持ちはわかるけど、あんたほんとに面白すぎるよ。
凱旋門賞へ向けて
日本競馬会における大目標のひとつ、凱旋門賞。
その大一番へ向けて、騎手の乗り替わりが発表されました。
何故ずっとコンビでやってきた池添を替える?
スミヨンのほうが池添よりも技術が上なのか、あの馬を乗りこなすことができるのか、そういう問題じゃない。
舞台が日本ならいざ知らず、仮にフランスで全く同じ条件の下でレースをして、10回乗って勝てる回数が多いのは池添と現地のトップジョッキーどちらか?
コンビ解消となればオルフェーヴルが好きなファンほど怒り心頭だろうけど、陣営はストイックに、ただシンプルに、凱旋門賞を勝つことを目指している。
それだけ本気で勝つつもりなんだよ。勝負をしなければいけない馬だってことなんだよ。
そんなことを自分なりに色々と考えて、当初は「なんとなく続投派」だった俺の考え方もだいぶ変わった。
もう、現地の新聞に"チャンピオンは2頭いた"と書かれて喜んでいられる時代じゃないからね。この馬は、勝ちを狙わなきゃいけない。
日本の大将、いざフランスへ
フォワ賞。
直線は「よし、よし、よし、よし・・・・・・よしっ!」って、馬券買ってラジオ聞いてるオヤジのようなノリで見ていた。
無事に勝ってくれた時は本当に嬉しかった。アウェイの不安もある程度払拭してくれたし、なんといっても向こうのレースを勝つ姿を見せてくれて安心した。
これは・・・本当にいけるんじゃないか!?
凱旋門賞。
残り300m、勝ちを確信したところで「勝った・・・!やった!やった・・・ウウッ・・・ついに・・・!」ってカイジみたいなテンションでちょっと泣いてしまった。
顔を上げたら残り100m、後ろから1頭近づいてきていた。
いやぁ、こんなに嬉しいことはない。
・・・なんか来てるけど?
まあ残すでしょ。
いやいや、まさか。
そんなこと、いやいやいやいや。
勝たせてくれ・・・!お願いだから!頼む!今日だけ!今日だけ!一回だけ!
あぁ・・・・嘘だろ・・・
あそこから差されたことが今でも信じられない。ゴールの先から誰かが勝ち馬を見えない糸で引っ張っているような、そんな不思議な光景だった。
ウイニングなんとかとかそういう感じの、作りの悪い競馬ゲームみたいだったもん。
レース直後に池江調教師のインタビューで語った言葉は、非常に印象に残った。
「日本の競走馬が世界のトップレベルにあることは事実です」
「勝負事は勝たなきゃいけない」
「日本のみなさん、申し訳ございません」
このコメントを聞いて、少しだけ残念な気持ちが和らいだことをはっきり覚えている。
そうなんだよ。一番を獲れるところまできてたんだよ。日本のファンに謝るってことは「勝てた」ってことだろ。
でも、やっぱりこのレースに関しては池江調教師が言うように、勝たないと意味がなかった。
負けて強しという言葉もあるけど、オルフェーヴルがいくら世界にその強さを示そうが何しようが、今回だけは結果が出なければ意味がない。
それでも、騎手を含め関係者ができること全てを出し切ってくれたと俺は思っているので、負けたことを批判するつもりは全くないし、敗因を何かに求めようとも俺には思えない。
仕掛けのタイミングが早かったという声もあるし、結果を見ればその意見も間違っていないと思う。
でも「やっぱり騎手を替えていなければ」なんてとんでもない。
は?
過去に見てきたレースの中で一、二を争うほど気分が悪くなったレース。
当日に東京競馬場に見に行こうか考えてなんとなくやめた(混んでると聞いたのもあって)んだけど、本当に正解だった。
このレース見て競馬を好きになったって人もいるだろうし、このレースと結果を否定する気はないよ。
でも、正直、今でも思い出したくない。
数日後に、このレースを漫画家のよしだみほがクスッと笑える内容の漫画に仕上げていて、最悪だった気持ちをいくらか和らげてくれた。
その道のプロってのはやっぱりすげぇんだなぁ、と思った。
現役続行
翌年の大阪杯~フォワ賞は、とりあえず勝ってくれて安心、という感じ。
凱旋門賞。
レースの一ヶ月以上前から「いやぁ、ついに日本馬が凱旋門賞を買つわけか、スピードシンボリに始まって、今までの日本馬全ての頑張りがようやく報われるんだな」とずっとニヤニヤしていた。
もう、なんかね、発走待ち。
ゲートが開いてスタートさえすれば2分半で歴史が動くんだから、クリスマスを待つ子供のように、レース当日までの残り日数を指折り数えてワクワクしながら待っていた。
残念っていうのとは少し違うんだよね。
はぁ、何それ、って感覚だった。
マジンガーZってアニメあるじゃん。ロケットパンチで有名なやつ。
その最終回で、仲間のロボットが敵に破壊される寸前までやられちゃうのよ。
それを助けに行った主人公のマジンガーZも全然歯が立たなくて、ボロッボロにやられるのよ。
負ける寸前のマジンガーZはもう力が残っていない。しかし最終回は主人公側が勝つことになっているはず。
どうやって逆転して話が終わると思う?
グレートマジンガーっていう、初登場の全然知らないロボットが最後の10分くらいで急に現れて、敵を軽ーく蹴散らして終わるの。
はぁ、何それ。
そんな感じのレースだった。
あんな強い馬がいるなんて聞いてないよ。
あのねぇ、事後報告って一番困るんだよ。
ラストラン
有馬記念。
この馬ではこれがベストレースです。
ってそりゃそうなんだよね。
この文章を書きながら気付いたんだけど、俺が好きになってからこの馬が勝ったG1レースって、最後の有馬記念だけなんだよ。
というか・・・この馬が強い勝ち方をするのなんて、2年前の有馬記念以来見ていなかった。
それが3コーナーからひとまくりの圧勝だよ。いくらなんでも仕掛け早くないか!?と思ったのも一瞬で、あとはもう綺麗な尻尾をなびかせてただ一頭で走るのを眺めていた。
残り300mくらいかなぁ、急に泣いちゃった。
なんだよ!お前、やっぱりめちゃくちゃ強いんじゃねえかよ!!って。
こんなに強いのに、何で凱旋門賞で勝てなかったんだよ!
何であんな3歳牝馬にぶつけられたくらいで負けちゃったんだよ!
なんとなく消化しきれていなかった負けレースを、最後の最後できちんと悔しがらせてくれた。
悔しがれて、本当に良かった。
一頭の馬に2回泣かされたの、こいつだけ。
黄金色の芸術
オルフェーヴル 21戦12勝 オルフェーヴル|競走馬データ- netkeiba.com
書きながら思ったんだけど、この馬のなにがすごいかって、思い返すともっと好きになっちゃうところだよね。
そうそう、考えてみたら俺オルフェーヴルから馬券買ったことないんだよね。天皇賞春で変な穴馬からヒモに300円くらい押さえただけ。
日本競馬、凱旋門賞の先へ
1度目の凱旋門賞、レースの残り300mで勝ったと思ってフライング泣きした時、「日本馬が凱旋門賞を勝った先の世界」に突入したような感覚が確かにあった。
日本の競馬がついにこの壁を越えた!という、何かがぱーっと開けたような感覚。
「はじめの一歩」木村vs間柴戦で最後に木村が「ベルトに手が届いた」と思った瞬間にたぶん近いね。日本馬があのレースを勝てば、きっと日本競馬の何かが変わる。
でも、野球だってWBCで優勝して何かが変わっているはずだし、サッカーだってW杯に出る前と出た後では何かが大きく変わってるんだよきっと。
凱旋門賞に強くこだわる必要はないという意見もよく聞くけど、こだわっている人に向かってその要不要を説いてもあまり意味はないと思う。少なくとも文句を言う必要があるのか疑問。
いや、もしかしたら何も変わらないかもしれないよ、例えば20世紀から21世紀に入ったときのように。
でもそれは一度勝たないとわからない。
2014年も3頭が凱旋門賞に出走して良い結果は出なかったが、いつか(近いうちに)その先の世界を見せてほしい。