7月30日、ディープインパクトが死んだ。
兆候といえるものはあった。春先の早い段階で種付けを中止して、「年齢的にも、もうそろそろ何かあってもおかしくないもんな・・・」と感じてた人は多いと思う。
とは言え日本で最も手厚い保護を受けている馬のはずだし、そんなにすぐ大事になることはないかな、とどこかで楽観視もしていた。そもそも馬産地のことはよくわからないし。
知った時は驚いたなぁ。昼休憩にヤフーニュースを開いたらそういう見出しがあって、目を丸くしたのが自分でもわかった。
記事を開かずに、そのまましばらく画面を見ていた。『名馬ディープインパクト 死す』の先にある、細かな情報は必要ではなかった。そうか、死んだのか・・・
いろいろな馬の活躍や故障や引退や死を遠くから眺めてきたけれど、こういうのは初めてなのでよくわからないんだよ。
ひとつ年上の全兄ブラックタイドから応援していて、デビュー前の時点で既に話題になっていた弟も同じくらい強いといいなと思って、どうもそれどころの器ではないということがわかって、ダービー馬になって、三冠馬になって、有馬記念を見に行ったらなぜか負けた。
天皇賞でそれまで全く見たことがないような競馬で圧勝して、凱旋門賞を走って、引退レースの有馬記念も楽勝して全く底を見せないまま引退、種牡馬入りすればリーディングを獲り続けて、ダービー馬を5頭も輩出して、死んだ。
現在進行形がストップしてしまったことで、ずっと測りかねていたものがひとつ腑に落ちてしまったような寂しさもある。一方で、大きく口を開けた深い深い穴に小石を落として、耳を澄ませていたらようやく音が返ってきたような、わずかな安堵感もある。
現役当時、これは本当に強いと認めながらもあまりに騒ぎ立てる外野の声に俺は辟易してしまって、歴史的最強馬を素直に見られない時期もあった。それでも三冠を決めた菊花賞には感動して、凱旋門賞は本当にいい夢を見た。
どこに一番の夢があったかって、武豊という伝説的な騎手のそれも一番勝ちまくっているタイミングでこういう馬が現れたことだよ。100%と100%を掛け算するとより純度の高い100%になるんだよねこれが。
競馬だから、勝つかもしれないし、勝てないかもしれない。結果はどうなるかわからないけれど、これ以上の組み合わせをもう二度と見ることがない、という強い確信を持って見ていた。無事にここまで持ってきてくれてありがとう。
いつか日本の馬が凱旋門賞を勝つことがあるとしても、あれ以上の組み合わせはもう見られない。そりゃ見たいしそれが実現したら嬉しいけれど、自分が生きているうちにあれ以上を見られるとは到底思えない。
当時からそう思っていたし、今もその考えは全く変わっていない。レースを走る前の返し馬で、ロンシャンの綺麗な芝の上をゆっくりと歩く姿をテレビで眺めていた時の、満ち足りた気持ちは忘れられない。
あれはまさしく英雄の姿だったよなぁ。あーちょっと泣きそう。
ディープインパクトは最期に大きく息を吸ったらしい。「息を引き取る」っていうもんな。
英雄が姿を隠したと思うか、ある時代の終焉と思うか、安楽死になった経済動物の最期と思うか、ひとつの命の静かな終わりと思うか、いろんな受け止め方があると思うよ。
関係ないけどたまたまその次の日に何も知らずに大井のナイター開催に行って、先に来てるはずの友達に電話しようとスマホをいじってたら、いきなりすぐ近くで武豊と和田とデムーロのトークショーが始まってめちゃくちゃびっくりした。びっくりしすぎて次のレースでガミった。