「いや〇〇のほうが強いだろ!」って否定されたら返す言葉があんまりないけど。とにかく、いい馬だったのは間違いない。
2歳
競馬仲間と東京競馬場で集まる約束をしていて、その日の新馬戦を勝ったのがメジャーエンブレムだった。
でも俺その日は着いたのが昼過ぎだったからレース見てないんだよね。
おいっすーなんつって仲間と合流して、とりあえずの話題として「新馬どうだった?」って聞いたら「人気のダイワメジャー」と返ってきて、「やっぱ新馬はダイワメジャーかぁ~」で終わった。
順当に条件戦を勝って、アルテミスS。
俺まだこの馬のこと知らない。
確か武豊が新馬の時期にブログで「松永幹厩舎のドリームジャーニーの子でいいのがいる」ってエスティタートのことを書いてて、なんとなくそこを気にして見てた。
外枠から引っ掛かって先頭に立っちゃったのがメジャーエンブレムで、好位に控えたエスティタートもちょっと掛かり気味ながらいい感じに4コーナーを回って、手応えは悪くない。このまま先頭に立って粘り込めれば頭まであるぞって感じ。
これなら前は交わせると思ってたのになんかじわじわ離されていって、なんだよ言う程でもねえじゃんと思ってたらエスティタートが止まってるんじゃなくて、逃げてるやつが突き放してんの。
最後は外から突っ込んできた田辺の大穴デンコウアンジュが差し切って勝った。でも、あの逃げたやつめっちゃくちゃ強いな。あと馬体なのか走法なのかわからんけど走ってる姿がなんかすごく綺麗。力強いのに品がある。横浜の筒香みてえな馬だな。
ここで初めてネットでこの馬のことを調べて、あー、あの日の新馬のダイワメジャーってこの馬だったのか、と知る。なんだよこんなに強い馬を見てたんなら仲間もそう言ってくれればいいのに。見る目のないやつらだなまったく。
っていうかもうこれダイワメジャー最高傑作まであるだろ。ダイワメジャーって現役時代は特に好きでもなかったけど、種牡馬としてはけっこう好きなんだよね。
そんで母父がオペラハウス。血統そんなに詳しくない俺にとって、父ダイワメジャーのスピードに加えてあのバテない力強さは母父から来てるんだろうなーと、わかり易い足し算ができるところもこの馬の魅力だったりする。
そしてオペラハウス直系のデンコウアンジュ・・・この馬、また東京で穴を開けるだろうな。東京で馬場が渋ったら買おう。
阪神JF。
もうここは楽勝だと思ってた。内枠を引いたのもあって、ルメールが変に中団に控えさせたりしなけりゃ余裕余裕。
「ここは通過点」なんて表現は、本当に通過するだけの時には使わないんだよ。わかる?
レースは好スタートを決めて、ハナを主張してきた馬を適当に行かせる。4コーナーでじわっと先頭に立って、そのまま突き放してゴール。
「先行粘り込み」とか「後続の追撃を封じる」とかじゃなく、「ただ他の馬より強いからレースに勝った」というだけの競馬だった。
昔、武豊が記者から「ディープインパクトの一番すごいのはどんなところですか」と聞かれて、「足が速いところです」って言っていた意味がわかるよ。
他馬よりどこが優れているとか何が決め手だっていうんじゃなくて、強けりゃレースには勝てるんだよ。いや、あのー、まあ、前走はあのー、ちょっとアレだけど。
メジャーエンブレムの楽勝ってことしか覚えてなかったので、これを書くにあたってレースを見返すまで2-3着がなんだったか全く思い出せなかった。
それとルメールはこのレースがJRA移籍後の初G1勝利だったんだな。最初の2年くらいは言うほどG1勝ってないんだよね。
3歳
東京競馬場に見に行った。史上最強牝馬を見に行こうぜ!と仲間も誘った。
いつもパドックは遠目に見るくらいだったんだけど、土曜だから空いてるし、折角なのでカメラ撮影する人達の横に並んで目の前で見た。
なんかね、やっぱね、すごいの。気品がある。何年か前に戸崎がジェンティルドンナに初めて調教で乗った時に、「凄みがすごい」ってかつてないほど抽象的な表現をしてたんだけど、今は戸崎に対してわかりみが深い。凄みがすごい。栗毛がきれい。実力が強そう。サラダ記念日。
レースでは絶好のスタートから早いペースで逃げて、そのまま圧勝。
いやー直線ほぼ馬なりで後ろを引き離してゆく姿を見てたらもう両目がハートになったよ。こんなのトゥザヴィクトリーがフェブラリーSで馬なりで先頭に立ったとき以来かもしれない。あの時はすぐに止まって4着でずっこけたけど、今日はぶっちぎりだった。
俺は最強牝馬はレーヴディソールだと言ってきたけど、今日でわからなくなった。ウオッカ?エアグルーヴ?ははっ。
いやー本当にいいものを見た。こんな勝ちっぷりが見られたら最高だと思って見に行って、それがそのまま見られるなんて競馬じゃ滅多にないことだよ。昔、年末で休めないはずの日にわざわざ休みとってディープインパクト見に行ったら負けちゃったことだってあるんだから。
満足というより、もう感謝に近いかもね。ありがとう、こんなに素晴らしい競馬を見せてくれて。ありがとう、あの日、無観客開催にならなくて。
もうこのレベルまで来ると、桜花賞絶対勝ってほしい!とか、勝つに決まってる!とか全然思わないんだよね。
この馬についてそういうことを考えるのは、もう野暮なのかもしれないな。「メジャーエンブレムは強い」以外に、何も思うことがない。
桜花賞。
スタートしてすぐ5番手に控えて、さらに真ん中あたりまで下げた。もうそこからは後手後手の競馬だった。直線で外に出そうとしても圧倒的人気の馬に道を譲ってくれるわけもなく蓋をされて、なんとかこじ開けたところでいまいち伸びない。
なんだこれ。ゴールしてすぐにテレビ消して不貞寝したよ。
もし万が一負けるとすればこういう形、というのは頭のどこかにあった。いつかこういうことがあるかもしれない、と1%くらい思っていた。
でもさ、よりによって桜花賞でこんな競馬するかね。桜花賞だよ?
あの位置どりはオークスを見据えてのものだったのだろうか。確かにこの馬なら今後の選択肢を広げてゆく必要があるのもわかる。
でも受け入れられないよ、こんなの。この馬が桜花賞馬になれないなんて・・・。
結果を踏まえてなのかわからんけど、オークスは出ないでNHKマイルCへ向かうことになった。
もちろんレースを見に行くつもりでいたのに、前日あたりから、なんか・・・なんかなー、どうだろう、みたいな消極的な気持ちになっていって、結局家で見ることにした。
競馬中継見ながら、なんかレースが近づくにつれてだんだん怖くなってきた。なんなんだこの恐怖感は。桜花賞を負けたショックは、この1ヶ月でほぼ消化できている。
でも、あのレースの後から頭のどこかにあったんだろう。競馬場に行くのを止めた理由もきっとそれだ。いよいよレースという時になって、急に自分の中にあった感情を認識した。
前走は、自分の力を発揮できない競馬で負けた。
じゃあ今回、自分の力を発揮できたとして、それで・・・負けたら?
俺は「負け癖」みたいなものはあると思っていて、例えば連勝してきた馬が一度負けるとそこから全く勝てなくなって不思議な負のスパイラルに入っていったりするじゃん。
もちろんその理由に「クラスの壁」とか「ピークを過ぎた」なんてのもあるだろう。でも、それだけで説明できるとは思えない。「流れ」というものはあるように思うんだよね。
この馬だって、前回の敗戦でなにかが悪い方向へ流れている可能性を否定することはできないわけで、もしまた勝てないようなことがあれば決定的なことになりかねない。馬の実力とは別に。
内枠から逃げて、シゲルノコギリザメに若干つつかれながら4コーナー回って直線で手応えは充分、いつものように後続を引き離し始める勝ちパターンに入っても、ゴール直前までずーっと怖かった。
これで差されたら、これで負けたら・・・。1分32秒8の恐怖。
馬券買ってないのにスタートからずっとドキドキしてたもん。意外と長いんだよ1分32秒って。ストップウォッチで測ってみてよ。
そんでまた東京の直線がなげーのなんのって。最後にロードクエストが突っ込んでくるあたりでどうやら勝てるらしいとわかって、ようやく安心できた。
現金なもんで、ゴールした瞬間にはもういつもの感じで「よし・・・まあまあだな」と、勝って当然のテンションに戻っていた。
とりあえず秋までお休みですかね。2000mでどんな競馬をするか、楽しみだなぁ。夢が広がりんぐ。
オークス。
桜花賞で10着だったデンコウアンジュが微妙に穴人気してる。わかってねえな、まだここじゃないんだよ。もうしばらく先なんだよ。
上位争いに加わることもなく、デンコウアンジュは9着。
秋
なんか脚を痛めただとかで、とりあえず紫苑Sは見送るらしい。
痛めた箇所の回復が思わしくなくて、ちょっと休養が長引くかもしれない、とのこと。
秋は全休して、来年の復帰を目指すらしい。
なんか・・・他の脚の蹄も痛めてしまったらしく、場合によっちゃ復帰が厳しくなるかもしれないらしい。
4歳
状況はよくわからないけれど、競走能力喪失というところまで来てしまったようで、引退することになった。
知ってる?競走馬って、引退するともうレースを走らないらしいよ。
次のレースがないから、もうこの馬のレースは見に行けないんだって。
そうなのか。もう終わってしまったのか。競馬ってのはわからんな。
そうなのか・・・
蛯名のデンコウアンジュが2着に突っ込んで大荒れだよ。
前の日が雨だったんだけど、俺は「最近の馬場はすぐ乾くし、こんなのどーせ人気のミッキークイーンだろ、おもんな」っつってろくに出馬表も見ないままレースを見た。
スタート直後に「あっ、デンコウアンジュがいる・・・」と気付いてももう後の祭りだよバカ野郎。最後にあの見慣れない勝負服が伸びてくるのを見てなんか体調悪くなったもん。しかも1着ルメールだし。
そして時は流れ、つい先月。
クロコスミアもフロンテアクイーンも引退しちゃったけど、愛知杯でまたデンコウアンジュが重賞を勝った。
これで重賞3勝目、もう7歳だよ。鞍上の柴田善と合わせると60歳。どっちもよく頑張るなぁ。
まだまだ元気で活躍の場がある馬達は、なるべく長く見ていたいよね。
メジャーエンブレム 7戦5勝 メジャーエンブレム | 競走馬データ - netkeiba.com
デンコウアンジュ 32戦4勝(2020年2月27日現在) デンコウアンジュ | 競走馬データ - netkeiba.com
メジャーエンブレムの引退を消化するのには、すごく時間がかかった。
俺も積極的に情報を集めてたわけじゃないけど、なんか筋肉痛だとか、しばらく休むとか、良くならないだとか、輪郭のはっきりしない情報しか入ってこなかったんだよね。
「まあまあ、そのうち復帰レースが見られるよ」って悠長な気持ちと、「前向きなニュースが聞かれないってことは、だめなのかもしれない」というネガティブな気持ち、そのあいだを現実逃避気味にふわふわ漂っていたまま引退と知ったから、しばらくは上手く着地できなかった。
関係者もしんどかっただろうな。どんな強い馬でもいつか引退するのは知っているけれど、まさかNHKマイルCが最後になるなんてな。寂しかったわほんとに。
初仔はルーラーシップの牝馬で同じ田村厩舎、順調ならもう今年デビューだよ。
すごいね。血統表の3代前がキングマンボ・トニービン・サンデーサイレンス・オペラハウスだよ。ダビスタだったらこの馬作るのにめっちゃ金かかるだろ。いやダビスタじゃなくても金かかるけど。
あーメジャーエンブレムやっぱ最強牝馬だわほんと。もう異論は絶対に認めない。